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Day.39-2002.08.21 Day.38へもどる
 アリス・スプリングス市内観光を予定していたこの日。

 菜津子は2人より一足早く、といっても朝8時30分頃起床し、1人でゆっくりコーヒーを堪能。たとえインスタントでも、ぼぉーっとして飲む朝のコーヒーは、彼女の目覚めには欠かせないのだ。
 コーヒーを飲みながら、菜津子はキッチンのあらゆる棚を開く作業を開始。何が備え付けられているか、そしてそれらが使えそうなものかを確認するためだ。


 バッパー(バックパッカーズ・ホステル)の台所には、冷蔵庫、お湯を沸かすための電気ポット、お鍋やフライパン、包丁やおたま等の調理器具などが一応一通り備え付けられている。しかしその内容や質は時として、天と地ほどの差があるのだ。

 僭越ながら(?)私達が"ラウンド中最悪の宿"と名付けた
シドニーのバッパーでは、お鍋や電子レンジとにかく全てのものが汚かった。必要最低限の道具を使用し、必要最低限の時間だけキッチンにいたいと強く思うくらいだった。反面、それ以外のバッパーは比較的どこも、そこそこ気にならないほどの衛生状態を保っていた。もちろん、使う“前にも”全てを一度洗うという事に変わりはないのだけど。


 今回宿泊しているバッパーのキッチンは、まずまずの衛生状態だった。取っ手のないお鍋や、これ以上ないくらい焦げ付いたフライパンはあるけど、使いたくないほどではなさそうだった。ところが、コンロを目にしたところで菜津子は当惑した。

 オーストラリアでは、電気コンロを使用している所が多い。バッパーにしても然りだ。しかしこのバッパーでは、珍しくガスコンロだった。電気の場合、形が異なっていても使い方はほとんど同じ、つまみを回せばいいのだが、このガスコンロは、ぱっと見た目ではどう使ってよいかわからない構造をしていた。

 そんな彼女を救ってくれたのが、チェコから旅行に来ていた女性。偶然その場に居合わせただけなのに、親切にコンロの使い方を教えてくれて、更に“私は今日チェックアウトするから”といって、彼女の持っていた食材を全て譲ってくれたのだ。菜津子が感謝感激したのは言うまでもない。


 そんな感動の出来事を知らない猛とキヨ君、10時過ぎにようやく起き出して来た。朝昼ごはんとして、定番の“
インスタント・ミーゴレン”を食す。体にあまり良くないことはわかっているけれど、この手軽さはやめられないのだ。

 キッチンの横は談話室のようになっていて、宿泊客はここで食事を摂ったりテレビを見たりすることができる。この日は当時話題になっていた“ALI(アリ)”という映画がケーブルテレビで放映されていた。予想通り、キヨ君と猛はテレビに釘付けになってしまった。それ程興味を惹かれなかった菜津子は部屋に戻り、少し荷物の整理をした後は2人が部屋に引き揚げてくるまで、のんびりとすることにした。


街中で見つけた警察の車。
この日は写真をほとんど撮影していないため、翌日の写真を拝借。



 再び部屋に揃った3人は何となく市内観光に出る気分になれず、次回のツアー終了後の旅について話し合った。そう、ここから先の予定はまだ、ほぼ白紙の状態だったのだ。

 キヨ君は、ケアンズでラフティングした後の旅をどうするか、悩んでいた。ここまでの間で、当初考えていた予定額をほぼ使い切っていた。ゴールドコーストに戻ってからの生活も考えると、宿泊しながら何日もかけて旅行するには予算的に苦しい部分があったのも事実だ。これは私達3人に共通していた。それに加え、キヨ君にはもう1つ“お悩み”が。

 そう、うっかりするといつもみんな忘れがちになってしまうのだが、キヨ君はまだ正式なお別れを宣言されていないので、一応“彼女に振られそうな状況”下にあったのだ。はっきりさせるため、そしてできれば関係を修復するため、一刻も早くサーファーズ・パラダイスに戻りたいという気持ちが強かった。そして、ケアンズ以南は、その気になれば(できれば彼女と!)また気軽に旅行に来られない距離でもなかった。


 対する保正家はどうか。
 実は保正家、ここ数日冷戦状態にあった。育った場所も環境も違う二人なのだから、意見の違いは当然ある。そして旅を続けていく中では、普段なら言い合いにもならないようなことがケンカの種になることだってある。この時、ケアンズからの旅をどうするかという話がきっかけになり、2人の間の空気はかなり険悪になっていた。

 勿論、キヨ君の前ではケンカしてはいなかったけれど、意外に繊細なキヨ君、保正家の妙な雰囲気を感じ取り、こちらもまた居心地悪そう。この数日間は、当人達よりもキヨ君の方が辛かったに違いない。未だに申し訳なく思っている一件である。


 モヤモヤとした空気を入れ替えるために、夜カジノに出かけたが、楽しくない気分の時には賭け事をするものではない。キヨ君が50ドル(当時約3,500円)勝ったのに対し、保正家は2人で72ドル(当時約5,000円)の負けという、苦い一日の終わりとなった。


 アリス・スプリングスでの休日は、思いもかけない試練を私達に与えていた。


カジノのある建物入り口。
内部にはカジノ場のほかレストランや小さなステージなどもある

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